論説 天久保さくら(記者)
「大きな問題はただひとつ、今最初に言ったようにSNSで外に出す、つまり自分たちが守らなきゃいけないものってあるはずだと、(……)ステークホルダーが外にいるということですから。その大事な、そういうふうな情報が外に簡単に垂れ流されてしまうようなところに誰が支援しますか。(……)財務経営的な視点、これ垂れ流すところなんかどうします? 企業は絶対にこんなところに投資しませんよ」(筑波大学学生宿舎寄宿料値上げに係る説明会での、千葉親文学生担当副学長の発言から。2026年1月20日)
昨年12月10日、筑波大学は突然26年4月からの学生宿舎寄宿料値上げと留学生学費値上げを発表した。唯一の学生代表組織「全学学類・専門学群・総合学域群代表者会議」(全代会)を含むほとんどの学生にとっては寝耳に水だった。寄宿料は居室のタイプにより約1.3~2.1倍の値上げ(多くの学生が住む一般改修棟は月額8,630円の値上げ)、留学生学費は年間7万3千円の値上げとなる。寄宿料値上げについて3回も説明会を開催させたことは、抗議した学生らの成果だ。しかしそれは、「住」という生活の根幹を揺るがす決定に係るものなのに、あまりにも杜撰──いや、「統治される大学」「稼げる大学」という今日の本邦の国立大学のすがたを、あまりにも的確に表現していた。
一方的決定と対話の放棄
学生の主張は「意思決定プロセスに問題はないのか(全代会ですら発表まで一切の通告を受けていない)」「来年度からの4億円の赤字予想の根拠は何か(大学は、現行の寄宿料だと今年度は1億円、来年度は4億円の赤字が出るため、今値上げが必要だとしきりに主張)」「借地借家法は適用されないのか(適用されるなら、値上げまで半年に満たない時期での通知は違法)」に集約される。全代会は値上げの1年延期を要求している。
しかし、大学と学生の主張は平行線を辿った。大学は、決まったことは変えられない、機密保持のため公開できない、大学の宿舎に借地借家法は適用されない──どうか受け入れてほしい、との主張を譲らなかった。
さらに、説明会に出席した学生は「自由な意見交換」のために、外部への内容の公開を禁じられた。副学長は「これは信頼ですので、もし守れないんだとしたら出て行ってほしい」とまで言い放った。
一方で、最終決定を下した学長以下役員らが、私たちの前に姿を見せることはついぞなかった。上の決定に従うしかない学生担当副学長と職員を矢面に立たせるということは、大学が対話による合意形成を端から放棄していることの現われだ。一体、「信頼」を無下にしているのはどちらだろうか。
知から利益へ 転倒する大学
大学はどういう考えに基づいているのか。冒頭の副学長の発言を検討してみよう。彼は言う。「守らなきゃいけないもの」がある、だから大学の意思決定や情報が完全に開かれることはないのだ、と。
大学は何を「守らなきゃいけない」のか。それが「学問の自由」や「学生の学ぶ権利」ならば、経済的制約をできるだけ抑えることで多様な学生がアクセスできる知を集積し、それを妨げようとする権力の介入から意思決定プロセスを守り、透明性や公開性を全ての構成員に保障することが、大学のやるべきことのはずだ。
しかし、副学長の言葉をみればそれは違うようだ。「ステークホルダー」「企業」「投資」という発言に現れるのは、大学が生み出す知やキャンパスを「稼げる」ものとして切り売りしていく新自由主義的発想に他ならない。事実、寄宿料値上げを含む大学の意思決定では、当の学生は無視されている一方、「経営協議会」で産業界の「有識者」らが関与している。
新自由主義の発想に従えば、「筑波大学社会的価値創造債」で2百億円を調達するこによって、「IMAGINE THE FUTURE. Forum」、「未来社会デザイン棟」、「SPORT COMPLEX FOR TOMORROW」を建設し、ステークホルダーたる企業との連携で大学から利益をあげることを目指す。
一方、儲けの出ない宿舎は値上げ、「それなりの受益を受けている方々」(永田恭介学長)である留学生の学費は値上げ、「健全な競争」のために情報は非公開ということになる。もちろん大学債とは借金であり利払いと返済が必要だから、大学は一層稼ぐことを求められる。

管理大学で学生自治を模索するには
それでは、新自由主義的権力が統治する大学で学生はどうすべきなのだろうか。対話の場とならなかった説明会、要求が聞き入れられない全代会など、彼らが想定する場を足掛かりにするのは限界かもしれない。
先日「筑波大学学生宿舎寄宿料増額の撤回を求める会」が結成され、学長以下役員らに、値上げの撤回あるいは延期を目指して直接交渉を申し入れた。どのような結果になるかはまだ分からない。 また、留学生学費値上げについてはまだ行動ができていない。さらに大学は、全学生の学費値上げも検討中とのことだ。
敵は大きく、複雑で、巧妙だ。ならば、足掛かりとする場ぐらいは、私たち自身で作らなければならない。大学が設定した、新自由主義的システムに基づくこれまでの「正規ルート」を活用するのではなく、私たち自身の直接行動によって、大学や社会を変えるための陣地を獲得しなければならないのである。大学をもう一度「学問の自由」と「学生の学ぶ権利」を守る場とするために。
〈筆者追記〉
記事を入稿した翌日(3月18日)に寄宿料値上げの1年延期が発表された。ひとまず我々の勝利だ。
一方で、大学は反省の色を見せずいずれ必ず値上げするという強硬姿勢だ。ここで扱った問題については何も変わっておらず、発表前の緊迫感を伝えるものとしても意味があるので、そのまま載せていただいた。
〈編集部追記〉
この文章の初出は、『人民新聞』2026年4月5日号(通巻1867号)です。

