来年4月から、筑波大の学生宿舎寄宿料が値上げされる問題で、宿舎入居者を中心とする当事者団体「筑波大学学生宿舎寄宿料値上げ撤回を求める会」と「筑波大学学生宿舎自治会準備会」は、▼当事者団体との協議に応じて入居学生と話し合いの機会を設けること、▼積算根拠の明瞭でない値上げを実施しないこと、▼大幅に削減してきた継続入居枠を拡充して赤字解消に努力することを要求する申入書を、10月13日に提出していた。継続入居枠は、2年生以上の学生がそのまま宿舎に居住できる権利のことである。この拡充の要求の背景には、筑波大が今年度の新入生の入居率80%到達を目指している事情から、継続入居枠は昨年の1033戸から今年度は465戸に大幅に削減され、823人の継続入居希望者のうち半数近くが抽選により退去を余儀なくされた事実がある。筑波大は23日、この申入書に回答し、要求を全面的に拒否した(記事の下に、「撤回を求める会」「自治会準備会」申入書の全文と、筑波大学生部の回答の全文を掲載しています)。
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申入書の提出に向けて、「撤回を求める会」は9月30日に集会を行っていた。値上げの半年前の告知を予想して1か月ほど前から準備を進めていたという。次年度からの寄宿料値上げはその2日前の28日に告知された。
集会には対面・オンライン含めて10名ほどが参加した。また、本紙のほか、『NEWSつくば』、『しんぶん赤旗』の記者が取材に訪れた。集会ではまず、28日の値上げ告知を受けて作成された交渉申入書案の確認と討議が行われた。続いて申入書の送付や、大学側に指定する回答期限についても議論が行われた。最後に「筑波大学学生宿舎自治会準備会」を結成することが決定され、宿舎に住む2年生の学生が代表に選出された。これは全代会による構成員罷免を受け、かねてより検討を進めていたものだった。「撤回を求める会」メンバーは「全代会との協議が進んでいるというが、寄宿料を納入している学生に情報を提供せずして何が合意なのか。受益者負担というなら、大学は寄宿料負担者との話し合いに応じるべきだ」と、本紙の取材にコメントした。
本紙の取材によると、筑波大学生部は23日、これら3点の要求への対応を拒否する旨を、それぞれの会の代表に回答した。「撤回を求める会」と「自治会準備会」は、協議が調わない場合は法的措置も辞さない構えを示している。この回答を受け、メンバーのひとりは「この1年、大学とは基本的認識が嚙みあっていない。すれ違いが解消しなければ司法に解決を委ねるしかない」と話した。
「撤回を求める会」「自治会準備会」が提出した申入書全文
本年3月18日、貴学永田学長は定例記者会見の場において1年の寄宿料値上げ延期の方針を固めたと発表しました。追って出された同26日付「学生宿舎寄宿料改定の実施時期の変更に係るお知らせ」において、「役員会が定めた日」から値上げを行う旨の方針が示されて以降、貴学は沈黙していましたが、本年9月28日に至り、貴学は「改定後の寄宿料等を令和9年4月1日から適用することを決定した」との発表を行いました。ここで貴学は「3回の学内説明会に引き続き、5月から6月にかけて「学生宿舎に関する対話」を開催した」としていますが、以上の取り組みで表明された学生からの指摘に対し、貴学は、障害のある学生への減免措置を除き、有効な対応策を示していません。
そのため、通知人である筑波大学学生宿舎寄宿料増額の撤回を求める会及び筑波大学学生宿舎自治会準備会(以下、「当会ら」と言います。)は、引き続き寄宿料値上げに反対します。当会らは、筑波大学生宿舎を、学生の学ぶ権利を保障するための基盤となる重要な施設と考えています。学生の学ぶ権利は日本国憲法第26条第1項が保障する基本的人権です(なお、学問の自由について定めた同第23条も参照)。そして、これを受けて教育基本法が第4条で教育の機会均等について定め、特にその第3項が経済的理由により修学困難な者に対する奨学の措置を国等に義務付けている趣旨は重く見られなければならないと考えます。 以上から、当会らは貴学に対し、以下の3点の要求を行います。
・団体交渉の実施及び団体交渉権を有することの確認
・すべての居室で来年度においても寄宿料の増額を行わないこと
・在校生(学類2年生以上)への居住権の確認
以下、それぞれの要求について詳しく述べます。
1.団体交渉権等について
全代会は不透明かつ大学当局に迎合する協議を継続しており、当事者である入居学生の意向を正しく反映していません。当事者を中心に結成され、当事者の学ぶ権利をはじめとした権利利益の擁護を第一の目的とする当会らに貴学との団体交渉権を認め、当会らを相手として団体交渉を実施することを求めます。また本年9月30日付の茨城新聞の報道では、「今後は、学生側と大学側で構成する委員会などを新たに立ち上げ、宿舎の運営に学生の意見を反映させる考えだ」としています。ここで貴学が明らかにしている「学生側と大学側で構成する委員会」にも、当事者団体である当会らの参加を求めます。
2.寄宿料増額について
貴学は、説明会において「4億円の赤字」を強調し、また本年5月に公開した動画「寄宿料の改定について」(以下、「本件動画」といいます)においても「維持管理運営費の上昇、老朽化(築50年超)に伴う修繕費の増加」「エアコンの設置」等により「毎年度4億円の赤字が見込まれる」と述べ、寄宿料改定の必要性を主張します。しかし、寄宿料増額の根拠は依然として全く明らかになっていません。以下にいくつか疑義を述べますが、これらの点に答えることなく寄宿料増額を強行することは許されません。
(1)修繕費について
本件動画において示されていた表「支出実績及び見込額」によれば、「施設部」の区分において「施設修繕費」の項目が設けられ、これが令和9(2027)年度以降の見込額として、毎年2億1000万円強の額が計上されていますが、その根拠が不明です。具体的にどのような修繕箇所があり、それにいくらかかるかが全く示されていないためです。
なお、令和1(2019)年度はちょうど9億円、令和2(2020)年度から令和6(2024)年度にかけてはちょうど3億円、令和7(2025)年度はちょうど6億円という実績が計上されています。実績額がこのような切りのよい額になる点についても、不審の念を禁じ得ません。
(2)エアコン設置費用について
同じ表によれば、令和8(2026)年度における「エアコン設置」のうち購入・電源にかかる費用として、合わせて2億4000万円近い額が計上されています。仮にこれを宿舎3500戸の全てに設置するものとした場合、1戸あたりの設置費用は7万円弱ほどになります。一方で貴学は、エアコン設置費用に基づいた寄宿料増額分を2500円と計算しているようです(令和7(2025)年12月10日付「学生宿舎寄宿料改定のお知らせ」等)。この月額2500円(年額3万円)を固定設備の減価償却相当額として考えると、貴学はエアコンを27から28か月の短期間で償却されると計算していることになります。しかし、家庭用エアコンの法定耐用年数は6年であり、また一般的な使用実態としては通常10~13年程度とされています。この点からすれば、月ごとの増額分は過剰徴収となるのではないでしょうか。
また、同年度から毎年、「エアコン設置」のレンタル費用として5000万円弱が計上されていますが、これについて何戸分なのか、またなぜ全戸購入とせず一部はレンタルとするのかの理由についても説明がありません。
(3)その他の費用について
同じ表でグレーの行で示されている項目については「予備修繕を行った場合の額」等とされています。そしてグレーの行で示されている項目は、上記2項目以外に、宿舎内清掃、植栽管理、施設保全の3項目となっています。これらは、いずれも令和8(2026)年度以降、顕著な増額が見込まれていますが、これについても具体的な説明がありません。特に、宿舎内清掃の費用が、令和7(2025)年度の2880万円に対し令和9(2027)年度以降は5692万円と、ほぼ倍になっています。修繕ですらない清掃の費用がこれほどまでに増えるのはなぜなのでしょうか。積算根拠に基づく説明を求めます。
(4)「受益者負担」という考え方について
本件動画は基本的にスライドの文言を音声で読み上げるものとなっていますが、その6枚目のスライド「寄宿料と維持管理運営費」の最初の部分で、スライドにはない「すなわち、宿舎を利用する学生が宿舎の管理業務や清掃業務等に関する経費を負担することで、そのサービスを受益するシステムです」という文言が読み上げられています。ここに典型的に表れている「受益者負担」という考え方は、4枚目のスライドにあるような、学生宿舎が「単なる居住の場」ではなく「学びの場」だという観点とは齟齬があるように思います。「学びの場」だと言うのならば、大学が維持費用を負担するべきではないでしょうか。例えば未来社会デザイン棟の建設費用は大学債の発行で賄われていました。一方、「受益者負担」を言うならば、貴学がかねてから主張するように学生宿舎に民法や借地借家法の適用を否定するのではなく、居住学生に借地借家法等の保護を及ぼすのでなければ均衡を欠きます。
(5)法律上の問題点
修繕や赤字などは借地借家法第32条に基づく賃料増額請求の事由には該当しません。また施設の修繕費は民法第608条第1項「必要費」に該当し、エアコン設置費用は民法第609条第2項「有益費」に当たり、いずれも賃借人(居住学生)が費用負担する義務はありません。
なお、消費者物価指数によれば、家賃の指数は前回の値上げのあった2017年からほとんど変動していません。仮に地価の変動を考慮したとしても、昨年発表された増額を正当化しうるものではありません。
3.入居学生の宿舎居住権について
上述したように、筑波大宿舎は、学生が学業や研究に専念するための基盤として位置づけられます。学生の学ぶ権利を真に保障するためにも、安価かつ安定した居住の確保は欠かせないものです。「教育的効果を意図した形態に整備した学生宿舎を全学生の学びの機会及び場として活用することにより、修学的な効果を高める」と述べる貴学第4期中期計画からも、学生の学ぶ権利の保障の趣旨を読み取ることができるものと考えます。そしてこの観点からすれば、新入生にのみ入居を保障し、2年生以上には一定の要件を満たす場合を除き抽選に当選しなければ居住を認めない貴学宿舎の運用は、不十分なものと言わざるを得ません。
貴学は、新入生の80%入居を目標に掲げ、そのために在校生(学類2年生以上)の次年度の居住については基本的に抽選により決めることとしていますが、今年度の新入生の入居者は全体の35%に満たない程度にすぎませんでした。その結果として、1000室以上が空室のまま放置されています(筑波大学新聞第393号10面「宿舎入居率6割 新入生は目標の半分未満」)。新入生の半分以下しか宿舎に入居しないのは今年度に限った話ではありません。そもそも新入生80%入居という目標は非現実的なものです。非現実的な目標に基づいた運用を改め、より多くの在校生に継続した宿舎居住を確保することこそ、学生の学ぶ権利保障の観点にかない、「修学的効果」も上がると考えます。
これにより宿舎居室の稼働率を上げれば、寄宿料値上げを行わずとも大幅な収支改善が可能となります。入居率を上げれば、多ければ数億円の増収が見込め、年間赤字の相当部分をこれによりカバーできます。寄宿料値上げを実行するまえに、このように入居実績に基づく適正な経営努力を尽くすべきです。
そもそも、非現実的で客観性を欠く新入生80%入居の実施のために、既存の入居学生の継続居住を保障しない扱いは、賃借人に対する更新拒絶の正当事由(借地借家法28条)を満たすと言えず、違法です。
以上により、既存の入居者(在校生)に対し、少なくとも一定の範囲で居住権を保障することを求めます。
以上の3点の要求について、本年10月23日までにご回答ください。
筑波大学生部の申入書への回答全文
筑波大学学生部学生生活課の(名前)です。本年10月13日付けの「申入書」を拝見しました。同書面でお申し入れの3点に対する本学の返答は、以下のとおりです。
「団体交渉の実施及び団体交渉権を有することの確認」について
団体交渉を実施する予定はありません。なお、本学には、学生からの意向反映の仕組みとして学生により自主的に運営される公的学生組織が置かれています。寄宿料改定についても、本学は、公的学生組織との対話の機会を設けています。
「すべての居室で来年度においても寄宿料の増額を行わないこと」について
動画配信・アンケート・個別傾聴・全体対話等を実施し、検討を進めてまいりました。また、学生の公的代表組織からの意見として、今後の学生宿舎の運営に関する具体的な提案を受けております。これらの過程を踏まえ、本年9月28日に公表したとおり、令和9年4月1日より改定後の寄宿料等を適用いたします。
「在校生(学類2年生以上)への居住権の確認」について
在学生については、在学生向け募集を行い、所定の手続きを経て入居の可否をご案内いたします。
おわりに、本年3月2日付け及び本年3月23日付けの申入書に対する返答と同様に、学生対応として通知人である貴殿らに対して返答していることを申し添えます。
(本紙注:個人の名前ならびに署名等は削除した)